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新潟地方裁判所 昭和48年(行ウ)3号 判決 1980年9月01日

新潟市医学町通一番町六五番地

原告

後藤作治

同市二葉町二丁目五一八八番地

原告

伊藤忠太郎

同市東中通一番町八六番地二四

原告

後藤忠次郎

同市東中通一番町八六番地一三

原告

伊藤ミチ

同市旭町通一番町八二番地一

原告

後藤松次

同市関屋田町二番地

原告

後藤ハル

同市旭町通二番町一〇四番地一

原告

後藤敦子

右同所

原告

後藤三男

右原告ら訴訟代理人弁護士

坂上富男

同市営所通二番町六九二番地五

被告

新潟税務署長

嶋田茂

右指定代理人

布村重成

柴一成

右指定代理人

本郷良一

関秀司

滝川孝三郎

渥美正弘

中村登

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告らに対し昭和四七年五月一日付をもってした別紙一の(二)記載のとおりの各相続税の更正及び過少申告加算税賦課決定処分(別紙一の(三)記載のとのりの昭和四八年五月一五日付の各審査裁決により取り消された部分を除く。)のうち、別紙一の(一)記載の各申告課税価格を超える部分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告ら八名は、後藤清三郎外一名(以下原告らをも含め「亡トメの相続人」という。)とともに、昭和四三年一一月一二日、後藤トメが死亡したことにより、同人の財産を相続し、これを原因として昭和四四年五月一〇日、被告に対し、別紙一の(一)記載のとおり相続税の各申告をした。

2  ところが、被告は、昭和四七年五月一日、原告らに対し、別紙一の(二)記載のとおり、相続税についての各更正及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件処分」という。)をした。

原告ら八名は、本件処分を不服として、被告に対し異議を申し立てたところ、棄却されたため、さらに関東信越国税不服審判長に対し審査請求を申し立て、昭和四八年五月一五日付で別紙一の(三)記載のとおり各裁決を受けた。

3  しかしながら、本件処分のうち、亡トメが、昭和四三年一一月一二日の死亡当時、安田信託銀行(以下「安田信託銀行」という。」株式会社新潟支店発行の別紙二記載の無記名式貸付信託受益証券(以下「本件証券」という。)を所有していたとして、これを右課税の対象とした点は、違法である。

よって、原告らは、被告に対し、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の各事実は認める。

2  同3の事実中、本件証券を課税の対称としたことは認め、その余は争う。

三  抗弁

本件処分は、次のとおり適法である。

1(一)  亡トメは、安田信託銀行(新潟支店)との間に、貸付信託契約を締結し、本件証券を相続開始時に所有していた。なお、本件証券のうち、<5>は昭和四一年六月二九日に締結された契約にかかるものであり、その余は別紙三記載のとおり更新された契約にかかるものである。

(二)  しかして、亡トメがその死亡時に本件証券を所有していたとする根拠は次のとおりである。すなわち、

(1) 信託会社である安田信託銀行が無記名式貸付信託受益証券(以下「受益証券)という。)に対する収益の分配を行う際に起算する支払伝票は、その受益証券の収益分配時期及びこれに添付されている収益票の持参人が異るごとに起票され、時期と持参人が同じ場合には収益配分の事績は一葉の支払伝票にまとめて記載する取り扱いをしている。したがって、一葉の支払伝票に記載されている記号、番号の受益証券の分配は、同一人に対してされていることとなる。

ところで、亡トメの相続人は、「は一二九-〇五-二六二」の受益証券(以下「二六二の証券」という。)を相続財産であるとして申告しているところ、昭和四一年一二月二一日付の支払伝票によると、同証券とともに、「は八七-五-七〇〇」の受益証券(以下「七〇〇の証券」という。)、「は八七-五-七〇一」の受益証券(以下「七〇一の証券」という。)、「は八七-五-七二三」の受益証券(以下「七二三の証券」という。)及び「は八七-五-七二四」の受益証券(以下「七二四の証券」という。)についても収益の分配がされている。そして、前記のとおり、七〇〇の証券は本件証券<1>に、七〇一の証券は同<2>に、七二三の証券同<3>に、七二四の証券は同<4>にそれぞれ更新され、しかも、本件証券の収益が昭和四三年七月二二日に同一の支払伝票により分配されている。そうすると同日時点において、本件証券が亡トメの所有であったことは明らかであり、しかも、生前、解約されたことも、後記のとおり他に譲渡されたこともないから、同人が死亡時においてもこれを所有していたということができる。

(2) 亡トメは、新潟市東中通一丁目所在の自宅において、独りで生活していて、伊藤金属株式会社等の役員として月々相当額の報酬を受け、これにより生計を維持していた。そして、特段、相続人以外の第三者の世話を受けていたことも、相続開始前三年の間に相当高価な資産を購入したり、借金をしたこともなく、本件証券を相続人以外の第三者に贈与等譲渡する状況にはなかった。

また、亡トメの相続人はいずれも、本件証券の存在が確認された際、自分らのものではないと述べており、これが相続人に生前贈与された形跡もない。

2  そこで、被告は、本件証券を、亡トメの所有財産であると認定し、相続税法五五条により、原告ら亡トメの相続人が法定相続分に基づきこれを相続したものとして、各金五〇万〇六一五円を申告された相続財産に加算し、国税通則法六五条により、本件処分をした。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(一)の事実中、亡トメが昭和四三年一一月一二日本件証券を所有していたことは否認するが、その余は不知。同(二)は争う。

2  本件証券が亡トメの安田信託銀行との間の貸付信託契約にかかるものとしても、本件証券は、亡トメの相続開始後、何人かに解約されていることからして、その生前に他に贈与等されたとみられるから、相続財産を構成しない。仮にそうでないとしても、原告らを除く他の相続人がこれを相続したから、これを未分割の相続財産として、原告らに課税するのは理由がない。

五  訴訟上の主張

原告らは、初め、「原告らは、主張する貸付信託受益証券を課税財産全体より除外して欲しいと主張はしていない。」、「本件貸付信託受益証券が、生前相続人を含む第三者に譲渡された事実がない。従って未分割財産を構成する主因であることは法理の面で納得するが、それ等が即原告らの相続財産ではないのである。」などと陳述し、相続財産(未分割財産)に含まれることは認めたのである。しかるに、原告らは、後に、「被相続人死亡において、本件受益証券は相続財産でないことは明らかである。」旨陳述して、右陳述を撤回するに至った。

原告らの先きの陳述は、本件処分の課税要件事実(本件証券が相続財産を構成するか否か。)についての自白にあたり、後の陳述はその撤回にあたるかう、被告は、これに異議がある。

第三証拠

一  原告ら

1  証人八木太良、同後藤清三郎、同後藤忠男の各証言及び原告後藤作治本人尋問の結果を援用。

2  乙第一五号証の一ないし一四、第一八号証の二ないし一二、の成立は認め、第一八号証の一三ないし一九は原告ら作成部分の成立は否認し、その余の作成部分の成立は不知。乙第一九号証の二の一、二、同号証の三ないし七は原本の存在及び成立とも不知。その余の乙号各証の成立は不知。

二  被告

1  乙第一ないし第一四号証、第一五号証の一ないし一四、第一六号証の一、同号証の二の一ないし五、同号証の三、同号証の四の一、二、同号証の五の一ないし九、同号証の六ないし八、第一七号証の一、二の各一、二、第一八号証の一ないし一九、第一九号証の一、同号証の二の一、二(ただし、いずれも写である。)、同号証の三ないし七(ただし、いずれも写でである。)、第二〇号証、第二一号証の一、二、第二二号証の一ないし七を提出。

2  証人江森武、同後藤清三郎の各証言及び原告後藤ハル本人尋問の結果を援用。

理由

一  請求原因1、2の各事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件証券が原告らの相続財産に含まれるか否か、すなわち、亡トメが昭和四三年一一月一二日の死亡当時本件証券を所有していたかどうかについて検討する。

1  ところで、被告らにおいて、本件証券が亡トメの遺産であり、原告らの相続財産に含まれることを自白したと主張するので、まず、この点につき判断するに、なるほど、原告らの準備書面(昭和四九年六月二四日付)には、被告の主張するような記載がされ、同書面は本件口頭弁論期日において陳述されているのであるが、他方、同書面には、原告らが本件証券を相続しなかったこと、すなわち、他に生前贈与されたものであることも併せて記載されているものであり、全体を統一的に理解すれば、原告らの主張は、亡トメが本件証券を他に生前贈与していたため、死亡時においてこれを所有していなかったとする趣旨のものというべきであり、結局、原告らは右書面により本件証券が相続財産に含まれないことを主張したものというほかはない。そしてまた、このように解さなければ、本件の最も重要な部分について、争わないこととなり、ひっきょう、本件処分の適法なことを容認することとなる筋合であって、本訴の提起と明らかに矛盾することになる。したがって、被告主張の記載のみを把えて、自白が成立したと解するのは相当でなく、この点の被告の主張は採用しない。

2  成立に争いのない乙第一五号証の一ないし一四、第一八号証の二ないし一二、証人江森武の証言及び弁論の全趣旨により成立が認められる乙第一ないし第一四号証、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第一六号証の一、同号証の二の一ないし五、同号証の三、同号証の四の一、二、同号証の五の一ないし九、同号証の六ないし八、第一七号証の一、二の各一、二、第一八号証の一、原告後藤作治本人尋問の結果により成立が認められる乙第一八号証の一三ないし一九、弁論の全趣旨及び文書の体裁から成立が認められる乙第一九号証の一、同様に原本の存在及び成立が認められる乙第一九号証の二の一、二、同号証の三ないし七、証人八木太良、同江森武、同後藤清三郎、同後藤忠男の各証言、原告後藤作治、同後藤ハル各本人尋問の結果によると次の事実を認めることができる。

(一)  本件証券<5>は亡トメが昭和四一年六月二九日安田信託銀行との間に締結した貸付信託契約にかかるもの、本件証券<1>ないし<4>はいずれも別紙三記載のとおり更新された契約にかかるものであるが、更新前の受益証券である七〇〇、七〇一、八二三及び七二四の証券の設定並びに右契約の更新は亡トメにより行われた。

(二)  ところで、安田信託銀行は、貸付信託契約に基づいて収益を信託者に支払う場合、受益証券に添付された収益票と引き換えに行い、収益の支払期及び収益票の持参人が異るごとに支払伝票を起票し、時期と持参人が同一の受益証券の記号・番号は一葉の支払伝票に記載している。(したがって、右取り扱いからすると、一葉の支払伝票に記載された記号・番号の受益証券の収益は、同一人に対して支払われたこととなる。)

(三)  七〇〇、七〇一、七二三及び七二四の各証券について昭和四一年一二月決算の収益金の支払事態は、昭和四〇年一一月二〇日亡トメが締結した契約にかかる二六二の証券とともに、昭和四一年一二月二一日付支払伝票(乙第一三号証)に一括記載され、また本件証券の昭和四三年七月決算の収益金支払の事績は、亡トメが昭和四二年六月三〇日締結した契約にかかる「へ一四八-C五-二七八」の受益証券とともに、昭和四三年七月二二日付支払伝票(乙第二四号証)に一括記載されている。その後、昭和四三年一二月九日に本件証券<3>及び<4>について、昭和四四年二月七日に本件証券<1>及び<2>について、昭和四六年七月二〇日に本件証券<5>についてそれぞれ貸付信託契約が解約された。

(四)  亡トメは、その死亡前数年間は新潟市東中通りの自宅に独居し、伊藤金属株式会社からの役員報酬を受けるとともに、相当の資産も有していたが、老令で、しかも糖尿病を患っており、身の回りの世話を原告ハル、後藤慶子ら親族の女性からしてもらっていた。そして、死亡前半年くらいは通院を除きほとんど外出することはなかった。

(五)  亡トメは、有価証券等重要な資産を安田信託銀行新潟支店の貸金庫に山田あき名義等で保管しており、同人名義の金庫への出納は、同銀行員に対する直接の指示あるいは原告後藤ハルを使者として行っていた。ところで、昭和四三年一一月二五日、相続人中原告作治、同忠次郎、同ハル、後藤清三郎ら六名ほどが、相続人全員の委任を受けて山田あき名義の貸金庫在中物を引き取った。その中に受益証券があったが、それは本件相続税申告にかかるもののみで、本件証券は存在しなかった。そして、右申告にかかる受益証券については亡トメの相続人により昭和四四年二月五日貸付信託契約が解約され、金員の払戻がされた。なお、その右申告にかかわるものであって右貸金庫在中のものでない、亡トメが昭和四三年二月二〇日契約した同人名義の「い一五五-五-一九六九」の記名式受益証券についても解約がされている。

(六)  亡トメの利用していた貸金庫として前記山田あき名義のもののほか自己名義のものがあった。これは昭和三四年一一月二一日借り受け(山田あき名義の貸金庫の借り受けは昭和三五年一一月二一日)、爾来継続していた。(もっとも、昭和四三年八月二四日それまで借り受けていた「一-一〇三二」号の金庫を「一-五〇二〇」号の金庫に借り替えているが、手数料は従前の分の残余を新規の分に流用している。)ところで、この事実は同人の相続人全員には明らかにされないまま、亡トメの死亡後も昭和四七年八月二二日まで何人かにより利用が継続された。

(七)  本件証券の存在は、昭和四六年初頃実施された前記伊藤金属株式会社に対する法人税調査の過程で明らかになったものであるが、亡トメの相続人は税務署係員による問い合わせに対し、全員が亡トメから本件証券の贈与を受けたことを否定する回答を寄せた(なお、昭和四三年には、亡トメから相続人全員が各自金五万円相当の受益証券の贈与を受けているが、これについては申告がされている。)。そして、本件証券<5>について貸付信託契約が解約された昭和四六年七月二〇日から間もない頃、その間の事情を聴きに前記銀行新潟支店に赴いた原告作治ら亡トメの相続人の一部に対し、同銀行の係員は右解約が亡トメの相続人のある者によって行われたことを言明した。

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

右事実関係よりすれば、亡トメが設定した本件証券が、同人の相続開始当時存在したことは明らかであり、その後において本件証券にかかる貸付信託契約の解約手続をとったものは、亡トメの相続人以外の第三者ではなく、相続人のいずれかであると認められる。ところで、亡トメの相続人はいずれも本件証券の取得を否認し、且つ亡トメが特定の相続人に額面金額合計で金五〇〇万円に上る本件証券(収益金支払事績からして相続開始直前の昭和四三年七月二二日本件証券が同一人の所持にあったことは動かし難い)を贈与等する状況にはなかったと認められるのであるから、亡トメは死亡するまで本件証券を所有していたものと認めるのが相当である。

もっとも、亡トメの死後、その相続人が亡トメの使用していた山田あき名義の貸金庫を在中物引き取りのため開披したとき本件証券は存在せず、また本件証券につき貸付信託契約の解約手続をとった相続人が誰れであるかは本件証拠上不明であるが、亡トメは右貸金庫以外に自己名義の貸金庫を古くから死亡時まで使用していたものであり、そこに在中物が何もなかったことは考えられず、むしろ本件証券はその一部と推認できる。なお、本件相続税申告の対象となった受益証券のなかには吉田あき名義の貸金庫に在中していた以外のものも含まれているものである。

結局、亡トメ名義の貸金庫を管理・使用できる立場にあった同人の相続人の誰れかが、同人の死後その立場を利用して、密かに、本件証券の独り占めを図ったものというべきであり、そして、右の事実をもって直ちに当該相続人に本件証券を取得させる亡トメの相続人による遺産分割の協議が成立したものと解することはできないし、本件証券につき遺産分割の協議が成立したことを認めるに足りる証拠もない。

したがって、亡トメの相続人は本件証券も相続したものにほかならない。

三  以上の次第により、相続財産である本件証券について無申告であるとして、相続税法第五五条及び国税通則法六五条に基づきされた本件処分は適法というべきである。

よって、原告らの本訴請求は理由がないので、これをいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊島利夫 裁判官後藤邦春及び同小原春夫は、転補につき署名捺印できない。裁判長裁判官 豊島利夫)

別紙一

<省略>

<省略>

なお、(一)は申告額、(二)は更正決定額及び(三)は審査裁決額を各示すものである。

別紙二

<省略>

別紙三

<省略>

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